Sanctuary*

育児と編み物と音楽と。 日常の事を綴ってます。

生きる不思議

昔、寝たきり状態で入院していたことがあった。

数か月間寝たきりでいると

当然足の筋力は衰え、歩けなくなる。

私は車椅子に乗る事となった。

当時の私は

生きる事に関心がなく、どうでも良かったので

自分が歩けない事に特別ショックも受けず

歩けないなら歩けなくても別にいいかなぁと思っていた。

そんな風に毎日ただなんとなく時間だけが流れて

いつの間にやら『リハビリ』とやらをしなくてはならなくなった。

突然現れたその人は「それじゃあ立てるかやってみよう!」と

私を車椅子から立たせようと手を引いた。

始めは少しふら付いたりしたものの

案外アッサリ立てたので、こんなもんかと思っていたら

その人は、私がビックリするくらい喜んで

「立てた!やったじゃん!!」

なんて言った。

理学療法士のその人は、私と大して年も変わらないのに

やたらと大人びていて、そしてとても楽しい人だった。

同じ病棟に特別親しい人が居たわけでも無く

いつも一人でいた私にとって

ユーモアもあってノリも良いその人は

唯一心の許せる話し相手になった。

リハビリ内容は、実はかなりハードだったけど

一緒にやってくれる人が、心の許せる人だというだけで

意外と頑張れたりするもんだなぁとその時知った。

そんな風にして人と話す事に少し慣れたせいか

気が付いたら、病棟に親しい友人が出来たりもして

リハビリって凄いものなんだなぁとも思った。

今こうして元気に普通に生きてる姿を見せたら

あの人はなんて言うかな。

もう二度と会う事も話す事もないだろうけど

届かなくてもいつも思ってるんだ

『ありがとう、元気だよ』って。

今じゃ歩く事なんて当たり前に出来て

当たり前に普通の生活をおくってるけど

私はあの時確かに、歩けなかったんだ。

沢山の大切な事を忘れて

当たり前に慣れきってしまいそうになったら

あの時の自分を思い出すようにしよう。

あの時の景色や空気や温度感を

私は忘れてない。

いつも見つめてた天井も、不安な夜も

あの時間を一緒に過ごした仲間たちの事も

忘れてないよ。

裏切りも痛みも、優しさも儚さも

ぬくもりも罪も過去も、絆も、生も死も 

全部全部あそこにはあって

その全部が凄く非現実的な、隔離された世界だった。

私もその中の一部で

空想みたいな世界で、ただふわふわと漂っていたけれど

いつの間にか今はこうして、あの時怖くてしかたなかった世界で

当たり前に生きてる。

生きてるって本当不思議。

不思議だよね。